この記事の要約
企業動画のストーリー設計は「目的・視聴者・行動ゴール」の3点から逆算して考えることで、理解・共感・好感・行動へとつながる構成を組み立てられる。
用途別の構成パターンと、ドキュメンタリー型での取材・質問設計を押さえ、担当者が事前整理と社内調整を行うことで、企画人材がいなくても制作会社と建設的に動画を作れる。
視聴ターゲット:
BtoB企業で動画を活用した認知拡大・商談化・採用強化を検討しているマーケティング担当者・広報担当者・採用担当者
想定する動画:
会社紹介動画、サービス紹介動画、採用動画、営業資料用動画、広告動画、ブランディング動画など
この記事で分かること(メリット):
企業動画で成果を出すために、伝えたい情報をどの順番で見せるべきか、視聴者の理解・共感・行動につなげる構成の考え方が分かります。単なる映像表現ではなく、目的に合わせたストーリー設計の基本を整理できます。
なぜ企業動画にストーリー設計が必要なのか
企業動画で成果を出すカギは、きれいな映像ではなく「誰に何を理解してもらい、どんな行動を起こしてほしいか」を起点にストーリーを設計することです。
ここでいう「ストーリー設計」とは、単に台本のセリフを書き並べることではありません。動画を見る人の心の動き(理解→共感→好感→行動)を想定し、「どの順番で・どんな情報や感情を届けるか」を組み立てることを指します。
ストーリー設計が不足した企業動画は、次のような失敗に陥りがちです。
採用動画:
社員インタビューをつなぎ合わせただけで、「結局どんな人に来てほしいか」「入社後のイメージ」が伝わらない
サービス紹介動画:
機能説明ばかりで、視聴者自身の課題と結びつかず、問い合わせや資料請求につながらない
企業PR動画:
抽象的なスローガンときれいなカットが続くだけで、何が他社と違うのかが分からない
研修動画:
講義の撮影をそのまま流用してしまい、長くて退屈で、最後まで見られない
これらはいずれも、「誰に」「何を」「見たあとにどうしてほしいか」が曖昧なまま撮影・編集に入ってしまうことで起こります。逆に言えば、目的・視聴者・行動ゴールを事前に整理しておけば、企画専門の担当がいなくても、制作会社と協力して成果につながるストーリーを作りやすくなります。
目的と視聴者像の整理:ストーリー設計の出発点
1. 「目的」をKGI・KPIで言語化する
まず決めるべきは「この動画で、ビジネスとして何を達成したいのか」です。ここでは、最終的なゴールであるKGI(例:応募数〇件増加、商談数〇件増加)と、その手前のKPI(例:動画視聴完了率、ランディングページ遷移率など)をセットで考えます。
たとえば採用動画なら「KGI=エントリー数の増加」「KPI=採用サイトでの動画視聴完了率50%以上」、サービス紹介動画なら「KGI=問い合わせ数の増加」「KPI=動画経由のLP遷移率○%」といった具合です。この数値があることで、構成や長さを判断する材料にもなります。
2. 「視聴者像(ペルソナ)」を1人に絞る
次に整理したいのが視聴者像です。ここではマーケティング用の詳細なペルソナシートを作り込む必要はありませんが、「誰に語りかける動画なのか」を1人の人物像として描くことが重要です。

・年齢・属性(新卒学生、中途エンジニア、決裁権を持つ部長クラスなど)
・知識レベル(業界のことをどれくらい知っているか)
・いま感じていそうな不安や疑問
・動画を視聴するシーン(スマホで移動中に/PCでじっくり など)
「新卒就活生全員」ではなく「就活中のBさん(文系、IT業界志望だが自信はない、働き方を気にしている)」といった形で具体的に描くと、どんな言葉やエピソードを入れるべきかが決まりやすくなります。
3. 視聴者の「現状の認識」を押さえる
視聴者像を決めたら、その人が「いま自社やサービスをどう見ているか」も整理します。
・そもそも自社を知らないのか、名前だけは知っているのか
・競合と比べたときのイメージ(高そう、難しそう、忙しそう等)
・どんな誤解やギャップがありそうか
たとえば「ハードワークなイメージを持たれがちな企業」なら、そのギャップをどう扱うかはストーリーの重要なテーマになります。ここを整理しておくことで、「あえてギャップを見せて信頼感を高める」「あまり触れずに別の強みにフォーカスする」といった構成戦略を制作会社と議論しやすくなります。
行動ゴールから逆算するストーリーづくり
1. 視聴後の具体的行動を1つ決める
ストーリー設計でもう1つの軸となるのが、「この動画を見たあとに、視聴者にどんな行動を取ってほしいか」です。ここが曖昧だと、内容が「いい話」で終わってしまい、ビジネス成果につながりません。
採用:
採用サイトでエントリーする/オンライン説明会に申し込む
サービス紹介:
問い合わせフォームから相談する/資料ダウンロードする
企業PR:
コーポレートサイトのストーリーページに遷移する
研修:
配布資料を見ながら実務に落とし込んでみる
行動は欲張らず、基本は「1つ」に絞ります。複数あっても「主」と「従」を決め、その優先度に合わせてラストの行動喚起(CTA)の見せ方を考えます。
2. 心理の4ステップ「理解→共感→好感→行動」で考える
視聴者が行動に至るまでには、ざっくりと次の4ステップが存在します。
①理解:
何をしている会社/サービスなのかが分かる
②共感:
自分ごととして「わかる」「そうなりたい」と感じる
③好感:
信頼できそう、感じが良い、とポジティブに受け止める
④行動:
「とりあえずやってみよう」と実際に一歩踏み出す
ストーリー設計では、動画の各パートがこのどの段階を担うのかを意識します。例えば、冒頭30秒で「①理解+②共感」のきっかけを作り、中盤で「③好感につながる具体的なエピソード」を入れ、終盤で「④行動」を強く後押しする、といったイメージです。
3. 行動ゴールから逆算した構成の組み立て方
行動ゴールが決まったら、「その行動を取るために、視聴者はどんな状態になっていればよいか」を書き出してみます。
・どんな不安が減っていれば一歩踏み出せるか
・どんな期待や希望が高まっていれば動きやすいか
・どの程度の情報があれば判断できるか
例えば採用動画で「エントリーする」がゴールなら、「ブラックではなさそうだという安心感」「自分もここで活躍できそうという期待」「選考フローのイメージ」が必要かもしれません。これらを満たすために、「先輩の日常」「残業や働き方の実態」「成長のプロセス」をどのタイミングで入れるかを決めていきます。
用途別の構成パターン理解:何をどう並べるか

1. 採用動画:一日密着型・クロスインタビュー型
採用の企業動画では、「一日密着型」や「複数社員のクロスインタビュー型」がよく使われます。一日密着型は、入社後のイメージがわきやすく、働き方のリアルな姿を見せられるのが利点です。クロスインタビュー型は多様な働き方やキャリアを見せられます。
冒頭:
印象的なワンシーン(朝の出社・打合せの緊張感など)でフックを作る
中盤:
仕事内容・チームの雰囲気・成長実感を具体エピソードで
終盤:
どんな人と一緒に働きたいか/視聴者への一言+エントリー案内
失敗しやすいのは「きれいなオフィス紹介+社長メッセージだけ」で終わってしまうケースです。「視聴者が自分を重ねられる社員の目線」を中心に置くことで、共感と好感が生まれやすくなります。
2. サービス紹介動画:課題解決ストーリー型
サービス紹介では、「課題→出会い→導入→変化」という課題解決ストーリー型が定番です。視聴者と似た立場の登場人物(顧客)が、どんな問題に悩み、どう解決に至ったかを描きます。
冒頭:
視聴者の課題を代弁するシーンやナレーション
中盤:
サービスとの出会い、導入の決め手、具体的な使い方
終盤:
成果・変化の数字や具体例+問い合わせへの導線
機能一覧をただ説明するだけでは、視聴者の「自分ごと感」は高まりません。「自分も同じ課題で悩んでいる」→「自分にもできそう」という心理の流れを重視した構成が有効です。
3. 企業PR動画:ヒストリー型・ビジョン型
企業PRでは、「創業からの歩みを辿るヒストリー型」や、「未来のビジョンを中心に据えるビジョン型」がよく使われます。
ヒストリー型:
創業の原点→転機となった出来事→現在の挑戦へとつなげる
ビジョン型:
未来に実現したい世界→そのための現在の取り組み→視聴者への呼びかけ
ここでの注意点は、抽象的な言葉やスローガンだけに終始しないことです。理念やビジョンを語るときも、「具体的なエピソード」「数字」「現場のシーン」を織り交ぜることで、理解・共感を得やすくなります。
4. 研修動画:チャプター構成と実務へのブリッジ
研修動画では、「テーマごとにチャプターを分ける構成」が基本です。視聴者は忙しい実務の合間に見ることが多いため、「どこで区切れるか」が重要になります。
各チャプターの冒頭:
学ぶ目的とゴールを提示
中盤:
事例やロールプレイなど、現場に近い具体例
終盤:
明日から何を試してほしいか、1つの行動を提示
単に講師の講義映像を垂れ流すのではなく、「自社の具体事例」や「ロールモデル社員の実践」を入れると、理解から行動への橋渡しになりやすくなります。
取材設計と質問づくり:ドキュメンタリー型を活かすコツ
1. ドキュメンタリー型のメリットと落とし穴
インタビューや現場の様子を撮影するドキュメンタリー型は、「リアルさ」「信頼感」を伝えるのに非常に有効です。台本で作り込んだセリフでは伝わりにくい、表情や声の揺らぎ、ちょっとした間などが視聴者の共感を生みます。
一方で、事前の取材設計が弱いと「ただ長いインタビュー集」になってしまいがちです。説明が冗長になったり、メッセージがぼやけたりして、視聴維持率が下がる原因にもなります。
2. 取材設計の基本ステップ:「誰に・何を・どの順番で」
取材設計では、次の3つを整理します。
誰に:
経営層、現場社員、顧客、パートナーなど、どんな立場の人に話を聞くか
何を:
それぞれの立場から、どんなエピソードや視点を引き出したいか
どの順番で:
動画のストーリー上、どの順番で登場すると一番伝わりやすいか
例えば採用動画なら、「社長(ビジョン・方向性)→若手社員(入社理由・成長)→中堅社員(キャリアの広がり)」のように、視聴者の心理ステップに合わせて登場順を考えます。サービス紹介で顧客インタビューを入れる場合は、「顧客の課題→導入の決め手→導入後の変化」を時系列で語ってもらうと、課題解決ストーリー型に自然に沿った流れになります。
3. 「本音」を引き出す質問例とNG質問
良いストーリーは、良い質問から生まれます。ここでは現場社員や顧客の「本音」や感情を引き出すための質問のコツを押さえておきましょう。
・オープンクエスチョンを使う(はい/いいえで終わらない質問)
・「いつ」「どこで」「誰と」「どう感じたか」と具体的な状況を聞く
・感情の変化にフォーカスする(驚いた/悔しかった/嬉しかった など)
例えば、次のような質問が有効です。
・入社前と入社後で、会社や仕事のイメージが変わった瞬間はいつですか?
・最近の仕事で、一番うれしかった出来事を教えてください。そのとき何を考えましたか?
・導入前に不安に感じていたことは何ですか?実際に使ってみて、その不安はどう変化しましたか?
逆に避けたいのは、「うちの会社の良いところを教えてください」「サービスの魅力を一言で言うと?」といった抽象的すぎる質問です。表面的なコメントになりやすく、視聴者の心を動かす具体エピソードが出てきにくくなります。
4. 視聴維持率を高めるための構成上の工夫
取材で多くの素材を集めても、視聴者が途中で離脱してしまっては意味がありません。ストーリー設計段階で、視聴維持率を意識した構成の工夫もしておきましょう。
・冒頭30秒に「この動画を見る理由」を詰め込む(課題提起・印象的なシーン)
・中盤に「見せ場」を配置する(感情が動くエピソードや成果の数字など)
・定期的に「問い」を投げかけるナレーションを入れ、視聴者の思考を促す
テレビ番組の構成でもよく使われる考え方ですが、企業動画ではここに「行動への橋渡し」を加える必要があります。理解・共感・好感で終わらせず、「だから、今この一歩を」というメッセージを最後までしっかり設計することが重要です。
制作会社への共有と社内の巻き込み方
1. 制作会社に渡しておきたい情報セット
ストーリー設計を制作会社と一緒に進めるうえで、担当者側が事前にまとめておくと役立つ情報があります。
・動画の目的(KGI・KPI)と想定する視聴者像
・視聴後に期待する具体的な行動ゴール
・伝えたいメッセージの候補(3つ以内に絞る)
・必ず登場させたい人物・現場、社内事情(撮影NGエリアなど)
・競合他社や既存動画で参考にしたいもの/避けたいテイスト
これらを簡単なメモや一枚ものの資料にして渡しておくだけでも、制作会社側は企画のたたき台を作りやすくなります。「お任せ」ではなく、「これをベースに一緒に考えていきたい」というスタンスを示すことが、ストーリーのズレを防ぐ第一歩です。
2. 社内関係者を巻き込むときの合意形成ポイント
企業動画は、経営層・現場・広報・人事など、多くの関係者が関わることが多いものです。ここで重要なのは、「ストーリーそのもの」を細部まで合意しようとするのではなく、「目的・視聴者・行動ゴール」の3点で合意を取ることです。
この3点が決まっていれば、多少の表現や構成の好みの違いがあっても、「本来の目的からずれていないか?」という観点で建設的な議論がしやすくなります。また、完成後の二次利用(ショート動画やSNS展開など)も見据えて、「どのパートを切り出せると便利か」を先に共有しておくと、編集方針が決めやすくなります。
この記事のまとめ
・企業動画のストーリー設計は、台本づくりではなく「視聴者の心理変化を設計すること」であり、その出発点は目的と視聴者像の整理にある。
・視聴後の行動ゴールから逆算し、「理解→共感→好感→行動」の4ステップを意識して構成を組むことで、採用・サービス紹介・PR・研修など用途別に成果につながる動画を作りやすくなる。
・ドキュメンタリー型動画では「誰に・何を・どの順番で聞くか」という取材設計と、具体的なエピソードを引き出す質問づくりが、リアルで魅力的なストーリーの鍵となる。
・担当者が目的・視聴者・行動ゴール、社内事情などを整理し、社内関係者と共有したうえで制作会社と対話することで、企画人材がいなくても意図とズレない企業動画を実現しやすくなる。
Q&A
Q:企業動画のストーリー設計は、必ず専門の企画職がいないと難しいのでしょうか?
A:専門職がいれば心強いですが、「目的・視聴者・行動ゴール」の3点を担当者が整理できれば、制作会社と協力して成果につながるストーリーを組み立てやすくなります。完璧な台本を書くことより、軸をはっきりさせることが重要です。
Q:視聴者像(ペルソナ)は、どのレベルまで細かく設定すべきですか?
A:マーケティング用の細かい属性をすべて埋める必要はありません。「どんな状況の、どんな悩みを持った一人か」がイメージできれば十分です。就活生なら専攻や志望業界、意思決定で重視しているポイントなどを絞っておくと構成に落とし込みやすくなります。
Q:ドキュメンタリー型動画だと、話が長くなってしまうのが心配です。どう防げますか?
A:撮影前に「誰に・何を・どの順番で聞くか」を決め、質問も「具体的なエピソード」と「感情の変化」を引き出すものに絞るのが有効です。編集段階を見越し、「この質問からは30秒程度のコメントを1つ使う」と想定しながら取材すると、冗長さを抑えやすくなります。
Q:制作会社に丸投げしないほうが良いのはなぜですか?
A:制作会社は映像のプロですが、貴社の事業戦略や社内のリアルなニュアンスまでは把握していません。担当者が目的や視聴者像、NG要素などを事前に共有することで、「見栄えは良いが意図とズレた動画」になるリスクを減らせます。役割分担を意識した協働が理想的です。
Q:一本の企業動画を将来ショート動画やSNS用に二次利用したい場合、ストーリー設計で意識すべきことはありますか?
A:各パートが独立したミニストーリーとして成立するよう、章立てを意識して構成するのがおすすめです。例えば「社員Aの一日」「顧客事例B」など、単体で切り出せる塊を設けておくと、あとから短尺化しやすくなり、撮影・編集コストの投資対効果も高められます。

